私は米文学作品を好んで愛読するのだが、今回はアメリカ文学史のなかでも重要な作品と言えるDaniel Keyesの名作『アルジャーノンに花束を』(Flowers for Algernon)を紹介する。今回ももちろんネタバレ無しで書いているので、気になったらぜひ手に取ってみてほしい。
『アルジャーノンに花束を』とは
1966年に発表されたSF長編小説であり、今までになかったSFとして注目を集め、ヒューゴー賞、ネビュラ賞といったいくつもの賞を受賞した。宇宙、未来などのそれまでのSF作品と一線を画した本作は、人間の知能をテーマにした作品として発表され世間から高い評価を得た。各国で何度も映画化・ドラマ化・舞台化されており、不朽の名作として愛され続けている。
本作の凄いところ
巧みな表現
私が読んだのは、早川書房から出版されている小尾芙佐による訳のものだ。ネタバレ無しで書くのは非常に難しいのだが、本作は特殊な文章の技法によって物語を進めている。あなたが本書を購入して読むとき、きっと1ページ目を見てびっくりすることだろう。文章が全てひらがなで書かれていて、さらに文法はめちゃくちゃ、句点は一切無い。これが物語を引き立たせ、没入感を倍増させてくれる。内容の特性上、必然的にこういった形になったとも言えるが、これがまた非常にうまい具合に作用しており、ち密に考えられた表現だと思った。
作品が伝える「メッセージ」
本作の根底には、1つのテーマがある。「知識を求めるということは、愛情を阻害してしまうことにもなりうる」。このことに気が付いたDaniel Keyesが制作した作品こそ、この『アルジャーノンに花束を』なのだ。愛、人間関係。主軸はこの2つであり、これらが物語における最重要事項だったように感じられた。学生の間に触れておきたいテーマ、そして作品だと思ったので、高校生の時に読めて良かったと心から感じた。
感動のストーリー
ネタバレ無しとなると、書けることはほぼなくなってしまうが、感動の長編小説であったことは間違いない。私のいち意見でもそうだが、世間からの評判も非常に高く、「感動小説」と検索して出てきたサイトのほとんどに掲載されているほどだ。そして何より、物語として(小説作品として)最高のフラグ回収が最後に待っている。ぜひ皆さんの目で確認していただきたい。
独特な読後感を味わえる
夏の夜、最後の1行を読み終えた時、私はこう思った。物凄い名作を読んだ、と。そしてそれと同時に、私の心は複雑な感情で満たされていた。個人的に、名作の条件の一つに「複雑な読後感」というのがあると思う。あれこれ考えてしまうのだ。その感覚が、その状況が本当に楽しい。良い小説作品たる所以である。この作品を読む前と読んだ後では、確実にものの見方、考え方が変わったとハッキリわかる。確実に成長できたと感じる。
おわりに
複雑な要素は無く、読みやすいし内容もわかりやすいので、学生の方には特におすすめしたい。また、起承転結のはっきりした本作は、読書感想文にも向いている作品だと思った。米文学の金字塔作品の中でも比較的最近の作品なので、時代感という観点からも感情移入がしやすかったりと、入門としてもおすすめできる。
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